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きょうだいの重要性を見過ごせない理由

特別なニーズがある子どもたちのきょうだいに特有な悩みを知る

このコンテンツを最初に訳した際には、有馬靖子の友人である金子久子さんに訳のチェック・手直しをしていただきました。ここに深く感謝いたします。

きょうだい支援プロジェクトの拠点は、子ども病院・地域医療センターからアメリカ合衆国知的障害者協会を経て、現在はシアトルにあるNPOキンダリングセンターに変わっており、ホームページも移転しています(2009.07.25記)。

ドナルド・マイヤーさんは2018年秋に引退され、きょうだい支援プロジェクトの現在のディレクターはエミリー・ホールさんです。(2021.11.13追記)

きょうだい支援プロジェクトのディレクター・ドナルド・マイヤー(Donald Meyer)
アメリカ合衆国/ワシントン州/シアトル/キンダリングセンター

アメリカ合衆国では、580万人以上の子どもが障害をもっている。そのほとんどにきょうだいがいる。その生涯にわたり、これらのきょうだいは、特別なニーズがある子どもの親の悩みと、ほとんどと言わないまでも多くの部分の悩みを共有し、そのほかにきょうだい特有の問題もかかえている。こうした悩みは親の間でもよく知られており、研究や臨床の文献に著されている。文献の著者、親、そしてきょうだい自身が語る悩みとは、以下のようなものである。

【情報の必要性】
障害や病気に関する情報が、生涯にわたり必要で、情報へのニーズが常に変化すること。(Lobato, 1990;Schorr-Ribera, 1992;Powell & Gallagher, 1993) 

 

【孤独感】
家族内での情報がきょうだいには秘密にされているとき(Bendor, 1990)、サービス提供者から無視されたとき(Doherty, 1992)、きょうだいが複雑な感情をもつのはよくあることだが、これを分かち合う仲間と知り合う機会を奪われたとき、孤独感を抱く。(Meyer & Vadasy, 1994)

 

【罪悪感】
病気や障害を引き起こしたという罪悪感、障害から免れたという罪悪感。(Koch-Hattem, 1986) 

 

【不満】
特別なニーズがある子どもに家族の注意が集まったり、その子が甘やかされたり、過保護にされたり、家族のほかのメンバーには許されない行動がその子には許されたとき(Podeanu-Czehotsky, 1975;Bendor, 1990)、不満に思う。 

 

【重圧】
学業、スポーツでよい成績をとることや、よい子でなければならないというプレッシャーを感じる。(Coleman, 1990)
 

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【介護負担】
介護負担が重くなること、とりわけ年長の女きょうだいの場合(Seligman, 1979)
【将来の不安】 
兄弟姉妹の将来における自分の役割に対する不安(Fish & Fitzgerald, 1980; Powell & Gallagher, 1993) 


一方、このようなきょうだいたちがよい経験をしているという認識も、ますます高まっている(Meyer & Vadasy, 1994; Powell & Gallagher, 1993; Turnbull &Turnbull, 1993)。親やきょうだいが経験したよかったことを以下に短く列記する。
 

【洞察力】
特別なニーズがある兄弟姉妹と共に成長した結果、そのきょうだいが人間らしいあり方に洞察力をもつようになる。
「彼女は、見返りの愛を期待しない無条件の愛し方を教えてくれた。だれもが強さと弱さをもっていることも教えてくれた。マーサも例外ではない。人間の価値はI.Q.テストで測れるものでないことを教えてくれた。」(Westra, 1992, p.4)

【成熟】
多くのきょうだいが、兄弟姉妹の特別なニーズにうまく対処した結果、成熟していく。
「私は、同年代の大部分の人とは異なる人生観をもっている。どんなことでも当たり前などと思ってはならない。そして、ものごとのよい面を見ることができなければ...ジェニファーについて嫌なところもあるけれど、よいところはもっとある。」(Andrea, 19歳,in Binkard et al., 1987, p.19)

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【誇り】
兄弟姉妹の能力を誇りに思うときょうだいが語る。
「ジェニファーは、たぶん私より多くのことを成し遂げた。本当にたくさんのことを乗り越えてきた。通学し始めた頃は話すことさえできなかったけれど、今はできるし、ほかの人の言うことも理解できる。自分の可能性をフルに発揮している。私たちはそれができているかどうか疑問だ。」 (Cassie, 18歳, in Binkard et al., 1987, p. 17)
【忠誠心】
兄弟姉妹と家族に対し、きょうだいが忠誠心を示す。
「自分の兄弟姉妹にいつもやさしくしてきたから、ほかのだれにでもやさしくする。でも、だれかがケンカをふっかけてきたら、受けて立つ。ウェードやジョリーンをからかうやつは許せないだろう。」(Morrow, 1992, p.4)

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【感謝】
多くのきょうだいが、自分の健康と家族に感謝している。 
「真実を直視せず、極端に単純化して考える傾向が人にはある。たとえば、私の母は聖人ではない。私の姉(妹)の障害を未だに受け入れていないところがある。それでも母は頼りになる人だと思う。自分にあれだけの強さがあるかはわからない。」(Julie, in Remsberg, 1989, p. 3) 
「メリッサの障害につきあっていると、自分がいかに恵まれているかがよくわかる。もし私が両親の長女だったら自分の人生はどうだったろうと、彼女はいつも思い出させてくれる。そのおかげで、自分の知的能力を生かし健康な体を大切にしようという気になる。」(Watson, 1991 p.108) 

きょうだいならではのよい経験が多くあるのは確かだが、これはきょうだいの経験を楽天的にとらえることとはちがう。こうしたプラス面の多くは、苦労の末、獲得したものだからである。つまり、きょうだいの経験は親の経験と非常に似通っているのだ。

家族内では、母親以外できょうだいが最も長く特別なニーズがある子どもと過ごすであろう。そして、きょうだい関係は家族内でふつう最も長く続く関係なので、きょうだいは長期にわたり前述のような悩みを経験する可能性が高い。きょうだいの問題は生涯にわたる問題である。きょうだいは幼稚園時代から、地域の同年齢の子どもだったら直面しないような問題をかかえることになる。それは高齢のきょうだいにとっても同じである。にもかかわらず、多くのきょうだいはリソースを知らぬまま成長する。リソースとは、支援プログラムへの参加や情報源であり、親にとってはあって当然のものであろうし、きょうだいが役割を果すうえでも役立つはずだ。

 

きょうだいの悩みを最小限にとどめ、よい経験をできるだけ増やすための、親やサービス提供者へのアドバイスは以下のとおりである。

 

きょうだいに年齢に応じた情報を与えること。 

ほとんどのきょうだいは情報を生涯必要とし、情報へのニーズは絶えず変化する。親やサービス提供者には、有益な情報をきょうだいに積極的に与える責任がある。特定の障害や病気をもつ人の利益を代表する公的機関の課題は、特に若い人向けの資料を作成することである。

特別なニーズがある子どものきょうだいが出会う機会を提供すること。 ほとんどの親にとって、同じ立場の親から助けを借りず「一人でやる」などとは想像もつかないことだ。しかし、こうした状況がきょうだいにとっては日常茶飯である。シブショップ(Sibshop)や同様の活動が提供するのは、親が価値を認めているようなごく当たり前の支援である。きょうだいに特有の喜びや悩みをもっているのは、あなた一人ではないと伝えるものである。

健常の子どもとのコミュニケーションを密にするよう勧めること。  

親子の間で十分なコミュニケーションをはかることは、特別なニーズがある子どもをもつ家族では特に大切である。夜間講座で「積極的に話を聞く」ことを学べば、家族の皆とのコミュニケーションを高めるのに役立つ。また、『子どもが聴いてくれる話し方と子どもが話してくれる聴き方』や『憎しみの残らないきょうだいゲンカの対処法』(どちらもAdele FaberとElaine Mazlich共著、本の題名の訳は邦訳本のもの)などの書物からは、子どもとコミュニケーションをはかるのに役立つアドバイスが得られる。

健常の子どもと過ごす時間を取るよう、親に勧めること。 

自分が一人の人間として大切にされているということを、親のふるまいや言葉から感じることが子どもには必要である。健常の子どもと行きつけのハンバーガショップでハンバーガーをほおばったり、商店街でウィンドウショッピングするなど、親が忙しいスケジュールをやりくりすれば、親はその子のためにも「存在している」というメッセージが伝わるものだ。

親とサービス提供者はきょうだいの体験をもっと勉強する必要がある。 

きょうだいの公開討論会、本、会報、ビデオのどれもがきょうだいの問題を学ぶうえですぐれた媒体である。きょうだい支援プロジェクトでは著書目録を用意している。

特別なニーズがある子どもの将来設計をして、健常の子どもを安心させるよう、親に勧めること。 

きょうだいは将来兄弟姉妹に対しどんな責任をもつことになるか、子どもの頃から心配する。親に勧めたいのは、将来設計を立て、それを子どもと共有することである。きょうだいが「輪に迎え入れられ」、自らの夢を追うことを親が賛成してくれると知ったら、将来の兄弟姉妹との関わりは義務的なものでなく選択の結果になるだろう。

多くの関係機関がきょうだいの重要性を看過できないと気づき始め、きょうだいが果して いる大切な役割を認知するよう方針や手続きを変更し始めた。関係機関が配慮すべき点は以下のとおりである。

[きょうだいが「家族」という定義に含まれているか]
多くの教育、保健機関が、拡大した家族の定義(たとえば、IFSPs(=Individualized Family Service Plans、個別家族サービス計画)やfamily-centered care(=家族中心ケア、「個人」ではなく「家族」を対象とする) を受け入れ始めている。しかし、サービスプロバイダーは、特別なニーズがある子どもとその子の両親以外にも家族のメンバーがいるということを忘れてはならない。「家族」とか「家族のメンバー」という表現が適切なのに「両親」という言葉を諸機関が用いれば、兄弟姉妹、祖父母、そのほかの家族のメンバーはそのプログラムに無関係だというメッセージを伝えることとなる。障害をもつ人々の人生においてきょうだいや主要な介護者としての祖父母の果たす役割は、ますます積極的なものになっているのだから、だれも家族の定義からはずせない。

[関係機関はきょうだいに手を差し伸べているか]
親や諸機関の職員は、多くの情報を与えてくれるIEP(=Individualized Education Plans、個別教育計画)、IFSP(=Individualized Family Service Plans)、過渡期の設計セミナー、病院での診察に、きょうだいを(強制しないで)参加させることを考えるべきである。きょうだいは本格的な質問をよくするが、サービスプロバイダーならこの質問に答えられよう。さらにきょうだいは十分な情報に基づいた意見や見解をもっており、子どものチームに好ましい影響を与えることができる。

 

関係機関はきょうだいが直面する問題についてスタッフを教育しているか]
きょうだいの公開討論会は、障害や慢性病をもつ人のきょうだいの人生をスタッフがもっと よく知るための貴重な手段である。きょうだいの公開討論会を催す際のガイドブックは、 きょうだい支援プロジェクト(SSP)が提供している。機関のスタッフ教育に役立つ方法で、 ほかにはビデオ、書物、会報がある。書目もSSPから出ている。

[関係機関にきょうだい専用のプログラムがあるか]
親同様、きょうだいも理解し合える人たちと話をすることから得るものは大きい。シブショップや、幼年期、学童期、思春期、成人期のプログラムの数は増えている。きょうだい支援プロジェクトは200以上 のシブショップやほかのきょうだいプログラムに関するデータベースを管理しており、地域でき ょうだいプログラムを立ち上げる際の手法について支援している。

[関係機関の諮問委員会にきょうだいが含まれているか、またきょうだいを含めることの重要性を反映した方針があるか。]
委員会にきょうだいが参加するということは、ユニークで重要な観点が委員会に加わるとい うことであり、またその機関がきょうだいの福利に関心を寄せていることの現われともなろう。 方策を立てる際、きょうだいが果たす役割が重要であるという考えが根底にあれば、その機関の家族に関する取り組みの中に、必ず兄弟姉妹の関心事や貢献も含まれることとなろう。

(この記事は『Sibshops: Workshops for siblings of children with special needs.』(Donald Meyer & Patrica Vadasy, 1994, Paul H. Brooks出版、版権所有)から取ったものです。

 

Bendor, S. J. (1990). Anxiety and isolation in siblings of pediatric cancer patients: The need for prevention. Social Work in Health Care, 14, 17-35. 

Binkard, B., Goldberg, M., & Goldberg, P. F. (Eds.). (1987). Brothers and sisters talk with PACER. Minneapolis: PACER Center, Inc. 

Coleman, S. V. (1990). The sibling of the retarded child: Self-concept, deficit compensation motivation, and perceived parental behavior (Doctoral dissertation, California School of Professional Psychology, San Diego, 1990). Dissertation Abstracts International, 51(10-B), 5023. (University Microfilms No. 01147421-AAD91-07868)

Doherty, J. (1992). A sibling remembers. Candlelighters Childhood Cancer Foundation Quarterly Newsletter, 16(2), 4-6.

Fish, T. & Fitzgerald, G. M. (1980, November). A transdisciplinary approach to working with adolescent siblings of the mentally retarded: A group experience. Paper presented to Social Work with Groups Symposium, Arlington, Texas. Available from T. Fish, The Nisonger Center, The Ohio State University, 1580 Canon Dr. Columbus, Ohio, 43210.

Koch-Hattem, A. (1986). Siblings' experience of pediatric cancer: Interviews with children. Health and Social Work, 107-117.

Lobato, D. J. (1990). Brothers, sisters, and special needs: Information and activities for helping young siblings of children with chronic illnesses and developmental disabilities. Baltimore: Paul H. Brookes.

Meyer, D.J. & Vadasy, P.F. (1994). Sibshops: Workshops for siblings of children with special needs. Baltimore: Paul H. Brookes Publishing Company.

Morrow, J. (1992). Lucky Robert--An interview with Justin Smock. Parents and Friends Together for People with Deaf-Blindness News. Vol.1, Issue 5, March 1992, p.1.

Podeanu-Czehotsky, I. (1975). Is it only the child's guilt? Some aspects of family life of cerebral palsied children. Rehabilitation Literature, 36, 308-311.

Powell, T. H. & Gallagher, P. A. (1993). Brothers & sisters: A special part of exceptional families (2nd ed.). Baltimore, MD: Paul H. Brookes.

Remsberg, B. (1989). What it means to have a handicapped brother or sister. Unpublished manuscript.

Schorr-Ribera, H. (1992). Caring for siblings during diagnosis and treatment. Candlelighters Childhood Cancer Foundation Quarterly Newsletter, 16(2). 1-3.

Seligman, M. (1979). Strategies for helping parents of exceptional children. New York: The Free Press. Turnbull, A. P. & Turnbull, H. R. (1993). Participatory research on cognitive coping: From concepts to research planning. In A. P.

Turnbull, J. M. Patterson, S. K. Behr, D. L. Murphy, J. G. Marquis & M. J. Blue-Banning (eds.), Cognitive coping, families & disability, Baltimore, MD: Paul H. Brookes.

Watson, J. (1991). The Queen. Down Syndrome News, Vol. 15, No. 8, p.108.

Westra, M. (1992). An open letter to my parents. Sibling Information Network Newsletter, Vol. 8, No. 1, p.4

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